僕はすっかりライカ信者になってしまった

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 世の中にはいろいろなものの「信者」がいる。本来の使い方である仏教やキリスト教の信者をはじめとして、アニメやマンガなどのコンテンツの熱狂的なファンも信者と呼ばれる。そしてある種の企業にも「信者」と呼ばれる人たちがいる。代表的なものはアップルだ。パソコンはMacで携帯はiPhone、音楽はiPodというのが理想的なアップル信者である。

 僕はこれまで、とくに何かの信者ではなかった。しかしこの数ヶ月ですっかり事情が変わった。僕もとある企業の信者になってしまった。その企業というのが、ライカである。

 ライカと聞いてピンと来る人は意外と少ない。特に僕の同世代だったらほとんどみんな知らない。知っている人でも、大半はコレクションアイテムになるようなカメラを作っている会社だというイメージか、もしくは「ちびまる子ちゃん」に出てくるたまちゃんの父親が使っているカメラという知識があるのみで、実物を見たり触ったりした人は少ない。

 ところが僕は本当にひょんなことから、このライカという企業の製品を使う機会を得た。M6というカメラを、さる人から借りて使わせてもらっているのである。

 さて、ライカM6を使い始めてから2ヶ月くらい経つわけだが、僕はすっかりこのカメラに惚れ込んでしまった。まずその端正な外観が僕の好みに合っている。余計なものは何もついていない(真っ赤なロゴマークが余計といえば余計だが)。そして、機会としての作りの良さは圧倒的である。フィルム巻き上げレバーの滑らかな感触、シャッター音の驚くべき静かさ、手に持ったときのしっくり来る感じ。コレクションアイテムとして見られることも多いライカのカメラだが、個人的には、持って出かけたくなるカメラナンバーワンである。

 カメラ選びのポイントはいくつかあるが、僕は機能的なことよりも、そのカメラを使って写真を撮りたくなるかどうかがいちばん重要だと思っている。だから、デジタルが好きならデジタルにすればいいし、フィルムが好きならフィルムでいい。一眼レフがかっこいいと思うなら一眼レフで、コンデジをラフに使いたいならそれでもいい。僕にとっては、ライカを持って街中を駆けめぐり、軽快にシャッターを切っていく感覚がたまらない。だから僕はいまのところライカが最も好きだ。

 それにしても、このカメラを使うことができているのは幸運としか言いようがない。いくら高いブランドイメージがあろうと、すべてのカメラファンの憧れであろうと、実際に使ってみなければその良さはわかりようもない。だが、中古で十数万するカメラなどなかなか買おうと思うものではない。だが、一度使ってしまえば話は別である。なぜそれほど人気なのか、そしてなぜそれほど高いのかの理由を体感することができる。そうすれば、購入するという選択肢も考えられるのである。

 ところで、この記事のアイキャッチ画像を見てほしい。これは、ライカのM-Aというフィルムカメラである。さて、フィルムカメラといえば衰退が著しいので、まさか新品が買えるなどとは誰も思っていないだろう。まして、この21世紀に新製品が発売されるなどとは信じがたいに違いない。ところがどっこいそれをやってのけてしまうのが、ライカという会社である。そう、このライカM-Aは、驚くなかれ2014年に発売されたばかりのフィルムカメラで、お金さえ払えば新品を手に入れられるのである。しかも、電子部品は一切使われていない総機械式カメラで、当然のように露出計などない。お値段は……60万円。はい。

 うん、このご時世に60万円も出してフィルムカメラの新品を買うなど、狂気の沙汰としか思えない。だが考えてみてほしい。ライカといえば、孫の世代まで受け継ぐことができるカメラとよく言われる。M3やM4などの総機械式カメラは一切電子部品が組み込まれていないため、しっかりメンテナンスをすれば平気で数十年使えるからである。ところで、その孫の世代とは誰かといえば、ずばり私たちのことである。なぜなら、M3やM4の多くは、製造から50年以上経過しているからである。すでに多くの人が受け継いできて、そしていよいよ最後の時を迎えようとしているカメラたちなのである(いや、ひょっとしたらまだあと50年使えるかもしれない。だが、修理できる職人の数もどんどん減っていくだろう)。

 たしかに、さまざまな人たちの手を渡ってきて、歴史を目撃してきたカメラの最後の所有者になるということも意義深い。しかし、いまライカの総機械式カメラを新品で手に入れ、そしてそれを丁寧に丁寧に使い込んで一緒に歳月を過ごし、やがては自分の子や孫へと受け継いでいく、そのファーストオーナーになれるということは、もっとはるかにすばらしいことだとは思わないだろうか。いやむしろ、これは本来ありえない、夢のようなことなのだ。この21世紀に、総機械式のカメラが新品で手に入るのである。いやはや、なんとも……

 そして、さっき言ったようにライカのカメラは作りが非常に良いので、60年前のカメラがいまだに現役で使われている。さすがに半永久的ではないが、まだもう少し使えるだろう。ということは、いま30歳の人がライカM-Aを買って、きちんと数年ごとにオーバーホールをして使っていけば、死ぬまで撮り続けることができるのである(フィルムの製造が完全に終わらなければ←まあ、こっちのほうが深刻だよね)。

 ということは、ライカM-Aさえ買ってしまえば、もう今後一切カメラは一台も買わなくて済むのである。なんということだ。これなら60万なんて、実質無料みたいなものではないか。レンズも40万とかするけど、でもライカのレンズはミラーレス一眼とかでも使いやすいから、お得だよね。

 とまあ、ライカ信者の人はこんな感じの金銭感覚の人が多い。もちろん、僕にはライカM-Aなど手が出ない。しかし、中古のM型はたぶんそのうち買ってしまうと思う。一度ライカを手にして使ってみたら、もうその感覚は忘れられないのだ。ライカを使えないのであれば、いっそカメラ自体をやめてしまったほうが良い。ほかのカメラを使いながら、あーライカとはぜんぜんちがうなァ、なんてグチグチ不満をたらすよりもずっと良い。