Spotifyのフォロワー数から見る世界のピアニスト

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 僕はクラシック音楽が好きだ。特にピアノ曲をよく聴く。ちょっと前までは交響曲などの管弦楽曲も聴いていたが、最近はあまり食指が動かない。管弦楽曲ピアノ曲に比べて規模が大きすぎて聴いていて疲れてしまう。その点ピアノ曲は良い意味でこじんまりとしていながら、それでいて内容的には極めて奥深いものがある。室内楽も同様である。だから自室で一人しみじみと聞き入るにはピアノ曲室内楽のほうが良いのである。管弦楽曲を聴きたいときは、ちょっと気合いを入れてホールまで足を運ぶ。

 さて、現代はそんな引きこもり音楽リスナーに優しい時代である。月額1,000円くらいを払うだけで膨大な音楽が聴き放題という夢のようなサービスがいくつもあるからだ。(日本では)最も有名な Apple Music をはじめ、世界で最もユーザー数の多い Spotify、それから Google Play Music あたりが代表的なところである。このうち、僕は Spotify を利用している。理由は、クラシック向けの音楽配信サービスはどれかとネットで検索したらいろんな人が Spotify をオススメしていたというただそれだけのことである。

 使ってみると、実際、Spotify は本当にすごい。あの音源はあるかな、と探してみると大体ちゃんとある。しかも CD だともう廃盤になってしまって入手が困難な音源があったりして、むしろ CD よりも品ぞろえが良いのではとすら思えてしまう。もちろん、それでも配信されていない音源もあるが。

 それから、Spotify で非常に面白いと思ったのが、アーティストを「フォロー」できるという機能である。フォローしておくと、恐らく新譜が出たときなどに通知してくれるのだろうと思う。クラシックはそんなに頻繁に新譜が出るわけではないのであまり便利とは言えないかもしれない。しかし面白いのは、アーティストごとにフォロワーが何人いるのかというのを見れるという点である。

 ということで今回は、僕が思いつく世界的なピアニストのフォロワー数を勝手に比べてみたいと思う。なおこのランキングは正確なものではない。世界的なピアニストを思いついた順に検索してみただけのことだから、抜け漏れが当然あると思う(特に4位以降は僅差なので誤りが多そうである。もし誤りに気づいた方はぜひコメント欄で教えてください)。その点はご容赦ください。まあ、軽いお遊び的なものなので。カッコ内がフォロワー数です。一部存命でない人も含んでいるけどまあいいや。

第1位:グレン・グールド(98,175人)

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 はい、グールド先生です。ダントツです。この人は非常に個性的な演奏をすることで有名で、ヘタクソなハミングが音源に入り込んでいることでも知られている。それまであまり人気がなくプロデューサーにも録音を反対されていたバッハのゴルトベルク変奏曲のCDで一世を風靡した。楽曲に対する好き嫌いが激しかったようでレパートリーはややいびつ。それから一曲のなかでも気に入らない部分はちゃっちゃと弾き飛ばしてしまう。晩年はあまり演奏活動をせずにレコード芸術に没頭した。良くも悪くも個性派で、彼の演奏を聴くときはバッハやベートーヴェンを聴くというよりもグールドを聴くという感じ。でもそこがむしろ筋金入りのクラシックファン以外にもウケる要因なのかもしれない。

第2位:ラン・ラン(68,774人)

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 正直めちゃくちゃ驚いた。この人ってこんなに人気だったのね。僕はこの人の演奏をほとんどまともに聞いたことがないのであまり何も言えないが、数曲聞いただけで分かるくらい好みに合わなかった。演奏にしても弾き方にしてもあまりにもやかましい。テクニックは確かなんだろうけど。まあ言えばポップス的というか。

第3位:ダニエル・バレンボイム(45,818人)

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 正直、この人が1位だと思っていた。だって、YouTubeベートーヴェンピアノソナタ第8番「悲愴」の動画が280万回も再生されているのだから。それもそのはず、YouTube で Beethoven piano sonata とか検索したらこの人の演奏動画がズラーッっと現れるのだ(ひょっとすると今は違うかも。YouTube の検索システムはよく分からないので)。個人的にはこの人の演奏はあまり好きではない。良く言えばケレン味があってロマンティックだが、端正で締りの良い演奏を好む僕にとっては少し大味すぎる印象がある。とはいえいろんな意味で世界トップクラスのピアニストであることは疑いようがない。(ちなみに、Google で Barenboim と検索すると指揮をしている姿ばかりが出てきて困った。)

第4位:マルタ・アルゲリッチ(35,361人)

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 すっかりおばあちゃんになったアルゲリッチが3位にランクイン。この人も上位にくるだろうなと思っていた。現代でピアニストと言えば男性はバレンボイム、女性はアルゲリッチ、みたいなところありませんか? 僕はあると思う。この人の演奏は若いころのを CD で結構聴いたけれどどの曲を弾いてもだいたいすごく早い。早ければ良いってもんでもないが、この人の演奏には求心力がある。うおーはえーって感心しているうちにどんどんと引き込まれて、気づいたら終わっている(あれ、それってダメじゃね?)。おばあちゃんになってからの演奏はあまり聴いたことがないが、今でも早いんだろうか。最近は室内楽で活躍しているらしい。(ちなみに、第二外国語スペイン語を履修していた身からすると、Argerich は「アルヘリチ」と読みたくなるが、どうも本人が「アルゲリッチ」という発音を好んでいるらしい。本人が良いと思うのが一番です。)

第5位:ウラディミール・ホロヴィッツ(29,888人)

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 5位はホロヴィッツ爺さん。なんかあんまり聴いたことがないピアニストばかりでコメントに困る。この人はいわゆる「爆演」系でして、残っているライブ映像で見ても確かに凄まじいものを感じる。スクリャービンの練習曲集のライブ映像が恐らく YouTube にアップロードされていて、それが印象に残っている。実際にリサイタルに行ったことがある人によると、ホールの最後列にまで音が減衰せず届いていたらしい。もちろん伝説化しているだろうが、ホロヴィッツの生演奏を聴いたことがあるというのは実に羨ましい限りである。

第6位:アルトゥール・ルービンシュタイン(23,535人)

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 ポーランド生まれの巨匠ルービンシュタインが6位にランクイン。ショパンと同郷というだけあって、ショパンを得意としていた。録音も結構たくさん残っている。2歳のときに姉が弾いていたピアノの曲を聴いてミスタッチまで完璧に再現して見せたという天才である。しかし練習があまり好きではなかったらしく音抜けやミスタッチが多かった模様。あるとき自分の演奏の録音を聴いてあまりの瑕疵の多さに驚愕してからは猛特訓して技術的にも高い水準を得るに至ったらしい。1887年生まれ1982年没ということでほとんど100年近く生きた人で、演奏家としてのキャリアは80年にも及んだ。そういうわけで彼の演奏は19世紀の巨匠時代のピアニズムを窺い知ることができる貴重な資料であるとも言える。演奏は実に雄大で聴く人の心に強く訴えかける情熱に満ちており、ショパンで迷ったらルービンシュタインを聴いておけば良いという安心感がある。納得の6位である。僕は「舟歌」がとても好き。

第7位:ユジャ・ワン(19,977人)

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 なんというか、スゴいよね、この人は。代名詞はミニスカートとハイヒール。自分の脚に並々ならぬ自信があるのだろう。この過激な衣装については賛否両論がある。クラシックというのは数ある音楽ジャンルのなかでもやはりある程度保守的な界隈だからそうなるのも当然である。個人的には好きにすればいいと思う(最近は比較的に地味めになってきているとも聞く)。ただ、リサイタルの最前列にはあまり行きたくない(苦笑)。音楽的には高い演奏技術と新鮮な解釈で一定の評価を受けている。らしいけれどいまいちパワー不足という気がするのは自分だけなのだろうか。ラン・ラン同様あまり良いと思ったことはない。

第7位:ヴァレンティーナ・リシッツァ(19,863人)

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 YouTubeとかニコニコ動画でやたらと人気のあるウクライナ出身のピアニスト。なんでもYouTubeで7,100万回の再生数を記録したとか。クラシック音楽の普及に貢献している素晴らしいピアニストである。風貌や演奏から「魔女」とも評される(失礼?)。インターネットから有名になった(もともと実績のある人だったらしいが)ということもあり毀誉褒貶が激しいものの、超絶技巧と強靭なパワーの持ち主であることは間違いない。そしてちゃんと音色にも幅があって色彩豊かな音楽を奏でる。ただ曲中の技巧的な部分がくると急にこれ見よがしに打鍵が荒々しくなって速度が上がるのはちょっとついていけないときがある。でもライブで聴くならやっぱりこういうピアニストが理想ですよね。クラシック音楽でこの人ほど聴衆を沸かす力がある演奏家はそう多くないはず。今後の課題としては、技巧や華やかさに頼らず解釈の深みで魅せるような曲、たとえばリストなら「巡礼の年」みたいな曲をレパートリーに加えていってほしいところ。いや、この人はずっとこのままでいいのかもしれない。

第8位:ウラディミール・アシュケナージ(18,766人)

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 ピアノ曲入門者に断然オススメなピアニストといえばこの人、アシュケナージさん。とにかくレパートリーが広汎で、しかもどの作曲家でも非常に高い水準で演奏するオールラウンダー。解釈も中庸そのものといった感じで一切クセがなく、万人に受け入れられやすい。録音にも積極的で、ベートーヴェンショパンラフマニノフなどピアノ曲の代表格の録音はほとんど全部この人で揃えることができる。そしてどれも実にハイレベルである。ただし、DECCAの録音のせいでやたらとピアノの金属音が響く。これがあまり好きではないが、迫力があるとも言える。(バレンボイム同様、Google画像検索で指揮をしている姿ばかりが出てきた。)

 第9位:スヴャトスラフ・リヒテル(16,910人)

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 ロシアの巨人、リヒテルが9位にランクイン。超絶技巧と鋼鉄のタッチで伝説となっている。当然、僕は生で聴いたことがないので偉そうなことは言えないが、録音で触れる彼の演奏はあまりにもダイナミックでスケールが巨大である。しかもそれでいて音色はとてもリリカル。レパートリーも広くバッハやベートーヴェンは当然、ショパンドビュッシーなどのロマン派、同時代のプロコフィエフの初演までやってのけた。容貌や演奏から厳格な人のように見えるが、証言によると繊細な人で決して怖くはなかったらしい。実際、トラックにピアノを積んで各地を巡り気に入った場所で突発的に演奏し終わったら去っていくというスタイルを理想としていたということから、なんとなく人柄が分かるような気がする。(余談だが、この記事を書くまでこの人のファーストネームを「スヴャストラフ」だと思っていた。「ス」と「ト」が逆である。)

第10位:マレイ・ペライア(16,817人)

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 最後の最後にようやく僕の大好きなピアニストが登場した。日本では長いあいだ何故かあまり評価が高くなかったらしいが、このところ人気が急上昇してきている模様。存命のピアニストのなかではマニアが多いほうで、ペライアが好きな人はとことんペライアを愛している。僕自身ペライア・ファンとはすぐにでも友達になれるという気がする。音楽を評するのにこういう言葉はあまりよくないと思うが、この人の演奏にはとにかく優しく穏やかな人柄が満ち溢れている。まったくもって飾るところのない朴訥で誠実な演奏である。そして同時に繊細な方のようで、それゆえか演奏にもどこか陰がある。それが音楽に得も言われぬ深みを与えている。僕はこの人のバッハとベートーヴェンが好きだ。録音も結構多い。ベートーヴェンピアノソナタも大半は録音しているが、いつか全集を完成させてほしい。特に30~32番の後期ソナタは絶対録音して後世に残してほしい。必ずやってくれると信じている。これからますます円熟した演奏が聴けるのが本当に楽しみなピアニストである。(ちなみに、今年3月にサントリーホールでやるリサイタルに行きます。ベートーヴェンの32番が聴けるのが楽しみで仕方がない。)

感想

 やってみた結果、やはりパフォーマンス的というか派手で華やかな演奏というのが一般的に好まれているのだなという気がした。上位のラン・ランやバレンボイムなどが特にそうである。あとグールドすげえなって思った。それからすっごい下世話だけどユジャ・ワンが他の女性ピアニストと変わらない普通の衣装だったらこんなに上位だったのだろうかと疑問である。それからツィメルマンキーシンが入っていないのは意外だった。

 個人的には、大好きなピアニストであるペライアがトップ10に入っていたのが非常に嬉しかった。ただ、他にもたくさんいる僕の好きなピアニストたちはもっと下のほうにいた。もちろん、数字が多いことが音楽的に優れていることを示しているわけではないが、僕の好みは世間のそれとはズレているのだなと再認識した。また今度、僕のお気に入りピアニストたちだけで同様の記事を書いてみようと思う。